「みんな、賭けをしているように見える。」
「自分が登場させた子供も自分とおなじかそれ以上には恵まれて、幸せを感じて、そして生まれてきてよかったって思える人間になるだろうってことに、賭けているようにみえる。人生にはいいことも苦しいこともあるって言いながら、本当はみんな、幸せのほうが多いと思ってるの。だから賭けることができるの。」
生まれることには自己決定はないが、産むことには自己決定がある。言われてみれば当たり前かもしれないけれど、産んだその子を幸せにできるのかどうかという賭けをわざわざすることに正当性はあるのか。賭けをするべきなのか。していいものなのか。そんな問いを投げつけられました。
38歳でパートナーのいない妊娠・出産を目指し、精子提供を考える夏子。そして、精子提供によって生まれた人々、その周囲の人々——さまざまな視点から、この「問い」の温度感が静かに、しかし確かに語られていきます。
私はこれまで、「子どもがほしいから産む」という論理に疑いを抱いたことがありませんでした。でも今、その当たり前が揺らいでいて、この命題はきっとこの後の私の人生に居座り続けるだろうと思います。
川上さんの作品は本作で三作目ですが、これまでで最も鋭く、私(読者)の倫理や思考を切り裂いてくるような言葉の連続で、読みながら何度もぐっと声を漏らしそうになりました。