第23回「このミス」受賞作。この可愛い書影を何度も本屋で見かけた、という人もたくさんいるのではないでしょうか。この作品、お腹が空きます。
大阪府豊中市にあるパン屋『エスティモ』が舞台。大学一年生のアルバイト・市倉春子は、スタッフ・お客さんに見える小さな違和感から推理を始めるーー。
「日常の謎」ジャンルの短編連作ミステリ。キャラクターを愛でたくなる纏まった可愛い文章、そして物語や謎の伏線として躍動する、堂々たるパンへの愛情。
軽い雑学にとどまらないパン作りや歴史へのフィーチャリングは、発行した生地をこねる手触りのような豊かな経験のようであり、この物語が私たち読者に温かく流れ込んでくる嬉しさがあります。令和的な時代要素の取り上げ方もごく自然で、漫画家としても活躍する著者・土屋さんの市井性を感じます。
読みやすさもパンへの愛情も一級品、ミステリ初心者にこそぜひお勧めしたい作品です。