〈森の図書委員今日のおすすめ本〉
『すべてがFになる』森博嗣
孤島の研究所で、10年以上隔離されながら生活を送る天才・真賀田四季。彼女の部屋から現れたのは、ウエディングドレスを纏いながら両手両足が切断された死体だった。
S&Mシリーズ第一作。偶然その場所に居合わせた大学助教授の犀川創平と学生の西之園萌絵は、最初にして最大の謎に挑むーー。
しばらく本棚に積んだままにしていたのですが、ようやく重い腰を上げて読了させていただきました。ちょっと面白すぎませんか。平成の新本格ミステリを代表する、緻密で計算されたトリック、ぶつかる天才たちの駆け引き、会話劇。読者の想像を遥かに超える、とはまさにこのことです。
犀川・西之園のやりとりがシリーズ最大の魅力でありますが、やはり今作では真賀田四季の発する圧倒的な言語を取り上げないわけにはいきません。
「たぶん、他の方に殺されたいのね・・・。自分の人生を他人に干渉してもらいたい、それが、愛されたい、という言葉の意味ではありませんか?」
真賀田四季の天才像の中には、著者・森博嗣の思う人間哲学がみえてきます。
天才が知性を極度に発展させたとしても、動物である「ヒト」、そして愚かにも感情を他者に働かせる「人間」であることからは逃れられない、という滑稽さ。しかし己の滑稽と手を取り、重力を無視したダンスをする彼ら天才たちの姿に、森博嗣の信じる人間愛を感じざるをえません。
シリーズ読破までもう少しかかりそうですが、犀川と西之園、2人の天才がどこに辿り着くのか、それを楽しみに今年は過ごすことになりそうです。