冷たい密室と博士たち/森博嗣
森の図書室

冷たい密室と博士たち/森博嗣

2025.10.14

大学の研究施設・低温度実験室。衆人環視かつ密室の状態に関わらず男女2名の大学院生が死体となって発見された。被害者は、そして犯人はどのようにして中へ入り、さらには脱出したのか。S&Mシリーズ2作目。犀川創平と西之園萌絵が挑む、第二の密室の謎とはーー。

大学内の実験室を舞台とした、密室ミステリ。本作最大の見どころは、彼ら研究者たちの生態や哲学でしょう。本作を通じて、犀川創平というキャラクターを好きになった方も多いはず。

「だいたい、役に立たないもの方が楽しいじゃないか。音楽だって、芸術だって、なんの役にも立たない。最も役に立たないということが、数学が一番人間的で純粋な学問である証明です。」

誰しもが一度は抱いたことがある「こんなこと勉強したってなんの役に立つのか」という感覚。コロナ禍で問われた「不要不急」。はたまた読書という趣味も、不要とされるノイズが多くそれを楽しめないと感じる人が増えています。
私としても早急にこの「要る要らない」論争に決着をつけたかったところですが、さすが森博嗣先生、彼にこう言われてしまえば、そうなのでしょう。S&Mシリーズを愛するということは、役に立たないことを愛するということでもあります。このシリーズは、ミステリのためのミステリではないのですから。きっとこれは人間愛に溢れた一つの文学です。
ここにあるミステリも密室も、実はただの自転車のチェーンでしかない。それを漕ぐ足、風を感じる身体、景色を得る瞳。その目的、その理想は人間が人間であることを楽しむことです。ミステリでなかったとしても、数多の作品たちは、きっとその理想のために生まれるのでしょう。

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