
「私は、伊東さんのことを、頭が良かったり、面白かったりするから、好きだったんじゃないよ。冷蔵庫にハミガキ粉を入れているところが、本当に好きだったんだよ」
上の文章は、本作の文庫版に併録されていた『虫歯と優しさ』の一節です。
頭の回転が速くて、話していて楽しかった、と言われたときに、「この人は、自分が相手を好きなほどには、自分のことを好きではなかったのか」と感じてしまう。そんな淡いずれを感じ取る瞬間の痛みが、心に深く残りました。
そして『人のセックスを笑うな』ですが、なかなかインパクトのあるタイトルですよね。最初にタイトルを見て誰に向けて言っているのかが、想像していたものとは違っていて面白く感じました。
19歳の少年と、39歳の女性の恋愛ですが、主人公の青さが滲む素朴な文体で、その真っ直ぐさと幼さがいいなと思いました。