『ゲイルズバーグの春を愛す』ジャック・フィニイ
SFやファンタジー、怪奇…そういった
ジャンル分けすら必要としないほど
あたたかで愛に溢れた作品集。
表題作『ゲイルズバーグの春を愛す』では
由緒ある小さな静かな街ゲイルズバーグに
近代化の波が押し寄せ、古く美しいものが
破壊されようとしていると
とうの昔に取り払われたレールの上を
電車が走ったり
郊外の邸は今はあるはずのない
蒸気ポンプの消防隊にぼやのうちに消し止められたり
不思議な現象が次々と起こり工事を阻止していきます。
人が抵抗するのではなく、“過去”が
抵抗するなんてロマンチック。
お気に入りは『愛の手紙』
古道具屋で買った
机の隠し抽斗から見つかった手紙に
少年が返信を書いたことをきっかけに
時代を超え、ヴィクトリア朝期の女性と愛を交わすお話。
隅から隅まで繊細で美しい…
全ての作品を通して
急速に移ろいゆくアメリカ社会を見つめ、
郷愁に駆られ自らの理想を描いたからこその
この温かみはフィニイにしか生み出せない世界だと感じました。