辻村さんが描かれる物語を読むたび、その言わずも知れた壮大さに驚かされます。“辻村深月”といえば、ミステリーという印象もあるかと思いますが、この作品は「圧倒的な恋愛小説」です。何が“圧倒的”なのか初めはよくわからなかった印象ですが、読み終わった後には何か物の言えない“圧倒的”を感じ得ました。
普遍的な“恋愛小説”では、描かれる恋愛そのものに重石が載っているような感覚がありますが、『傲慢と善良』では、“恋愛”はいわば書道の文鎮で、書かれる文字は私たちの身の回りに起きる繊細な事象全てなのです。綴られる文字全てが読者の脳内では解像度が高く描かれてしまう。両親との関係、これまでの生き方、性格、価値観、何もかも全ては他人から見ればその人の傲慢さの結晶で、外面的な善良は個人を守っているように見える諸刃の剣だと思います。
そんな拙いことを考えさせてくれたような作品です。