『彼は、年齢に似合わない諦観のようなものを持っている気がした。それはほとんど老人のようだった。そして、物事の何もかもにおいて、自分を最も底辺に据えてから、考え始めるようなところがあった。自分が微塵も有用ではない人間であるということを根底において、生きていた。彼がどうして、自分をそこまで軽んじるのかは分からなかったが、だからこそ、彼は小さなことをとても喜んだ。綺麗なものを見ると、それを慈しみ、咀嚼し、その感動に、飽きることがなかった。』
どうやったら夏目みたいになれるんだろうって思いました。
彼の絵を一目見た瞬間から彼にのめり込み、彼のすべてを知りたくて、でも深入りすることを恐れもして、
こんなにも、彼に心を奪われて、彼が自分の全てで、想いは募るのに、自分だけのものにならなくて、その辛さを抱えて、
そして訪れる別れ。
想いは単なる恋を超えて、夏目に生きる力を与え続ける。”失恋”という言葉が持ち得なかったはずの、おさまりきれないほどの力強さと光の中で生きていく。
彼女のはちきれそうな想いが痛いくらいに伝わって、そして、勇気をもらいました。
人が強くなるその瞬間が、えがかれている小説です。