「『でもそのツリーが変なの。木がなくて電飾だけなんだけど、青一色の、こまかい、きれいな電飾だった』と。
私はたぶん泣きだすべきだったのだ。そんな暗喩にみちたみたいな夢を好きな男がみただけで胸を塞がれるが、それをそんなに真正直に、やさしい声で説明されるなんて大惨事だ。」
引用は、表題作の文章です。”木がなくて、電飾だけのツリーを一緒に買う夢を見た”と好きな人に言われて、それで泣き出しそうになるなんて、と最初は思いました。
でも、きっと彼女には彼女の論理や哲学があって、彼女の論理に照らせばそれは”大惨事”なのだと思います。
喪失するためには所有が必要です。所有している時から喪失に号泣する準備、それでも所有していたことを忘れない覚悟が必要なのだと学びました。
そうしたら、この本に出てくる彼女たちのように強く、自分を信じて、生きていくことができるのかな…と、そう思います。
江國さんのえがく、直木賞受賞の短篇集です。