2022年本屋大賞受賞作。最近文庫化され店頭に再び並ぶようになりました。
まだまだたくさんの人にこれが届くかと思うと、何だか嬉しいですね。
第二次世界大戦下。ナチスドイツに村を焼かれ家族を殺された少女・セラフィマは訓練を受け、
ソ連の女性狙撃兵として戦火に身を投じます。
それは母親の仇を取るため。更には村に火を放ったイリーナへの復讐のためーー。
当時実際にいた女性狙撃兵の史料に基づく、戦争のリアルとそこで蔑ろにされていた女性たちの感情に焦点を当てた戦争/時代小説ですが、作劇の緻密さとドラマティックさに由来する、あまりの読みやすさに感動します。
というか、最初だけ切り取ったらほぼ進撃の巨人ですね。
訓練を受け、様々な戦場に身を投じる中で、セラフィマは多様な人物に出会います。
様々な信念と対峙し、その死に触れる中で、彼女の中でも揺らぎが生じていく。
戦争に感覚が麻痺していく地獄。その中で『敵を撃て』とされる敵とは何なのか、彼女は問いを見つめ続けます。
異常が日常になっていく中、「これは一体何なんだ」と一瞬訪れる心の静寂が、本書一番の見どころではないでしょうか。
狂っていなければ正気が保てない。
現代人も持ちうる人間感覚の災難を女性の視点から鋭く描く長編大河作品です。