毎年2月には本屋大賞ノミネート10作が発表され、4月にはそこから大賞作品が選ばれます。書店もそれに合わせ様相が変わったり、友達と「あれ読んだ?」なんて話もできるのでこの時期はいつも楽しいですね。
本屋大賞は書店員投票で選ばれるため「書店員さんはどんな作品を売りたいと思ったんだろう」なんて視点から楽しむことができます。そしてこの賞を追う中で出会ったのが、この『光のとこにいてね』でした。
もしかするとこれは、私が社会人になってから読書することを大事にするに至った、きっかけの一冊のように思います。
物語とは、創作とは何のために生まれるのでしょうか。
幾重もの答えが存在すると思いますが、私はまず「残すため」だと考えます。
世の中の「事実」とされる文化や歴史、もっと言えば「正しい」とされる文化や歴史。
それらは全て残ってきたものです。しかし反対にいえば、残ることのできなかったものは間違っているとされ、最悪、無かったことになります。
負けること、弱いこと。少数であること。ただ運が悪かったこと。それだけのはずなのに「正しくない」とされ、無くなってしまったものたち。その中にだってとても大事なことや、誰かの孤独に寄り添ってくれることがたくさんあったはずです。
物語とは、虚構であり正しくないものです。
しかし、だからこそ物語は「正しさ」や「強さ」とはかけ離れた位置で、失われないように何かを残すことができるのではないでしょうか。
私にとって『光のとこにいてね』は、そんな作品です。
ある団地で出会った、異なる貧しさを持った二人の少女。
「光のとこにいてね」という小さな約束も果たすことができず、別れることになってしまった二人が再び出会い、
運命としかいえない何かに揉まれながら、生きることを模索する不思議なおはなしです。
正しくもなければ、感動的でもなく劇的でもない。それゆえに物語が何かを残すこと、その美しさに差し迫ることができる作品です。