2025本屋大賞受賞作。受賞おめでとうございます!森の図書室にも置いておりますので、ご来店したお客様は是非ツマミ読みしてくださいね。
昨年の本屋大賞作『成瀬は天下を取りにいく』が人と人の自然な関わりが良い影響を及ぼしあう「セラピー」の作品だとすれば、
この『カフネ』はさらに大きく一歩踏み込んだ、ニーズに応えるお節介を描く「ケア」の作品だと言えます。
弟を亡くした主人公・薫子。弟のパートナーであったせつなから、半ば強引にご飯を作ってもらったことをきっかけに心の回復をおぼえながら『カフネ』での家政婦ボランティア活動に共に参加していきます。
溢れ出すのは、人の心を通して描かれる料理の美しさ。これを『情飯描写』と呼ばずしてなんと言えるでしょうか。もう一度言います。『情飯描写』です。
たとえ不要なお節介であっても、目の前に熱々のハンバーグが出されてしまえば、冷める前に自然と手をつけてしまうのが人の性。
心が死んだつもりでも身体は生きたいと叫んでしまう。そのニーズを満たすことで人は本来の優しさを思い出し、再び誰かに優しくすることができるようになります。
せつな・薫子のくどいとも言えるお節介に、読者の中には違和感を覚える人もいるかもしれません。
しかし行き過ぎた個人責任の世の中です。分かり合えない相手だからこそ私たちは強かに、図々しいくらいに手を差し伸べることに
希望を覚えるのでしょう。そして料理というのは圧倒的なまでに物理的で、日常的で、無視できないお節介の象徴です。
「卵と牛乳と砂糖は、よっぽどのことがない限り世界から消えることはない。あなたは、あなたとお母さんのプリンを、自分の力でいつだって作れる」
誰かを助けることとその力を信じてあげること。その光が溢れる後世に残る一文ではないでしょうか。死を受け止めてなお生きていくことを料理を通して鮮烈に描いた『カフネ』。是非ご一読ください。
余談ですが舞台となる八王子は私の出身でもありまさに地元of地元。ちょっと集中できなくなるくらい浅川を思い出したりしました。八王子にもぜひ遊びにきてください。