2025年。これを超えるミステリに出会えるでしょうか。本屋大賞4位入選、鮎川哲也賞も受賞した今年を代表する医療×本格ミステリの作品です。
ミステリがそこそこ好きな私ですが、「作者と読者間での情報ゲーム」だなんて思うことがあります。読者はいかにフェアで奇想天外で、予想の裏を突かれて気持ちよく負けるかを楽しみにしていますし、一方で作者もドレスコードを意識しつつ、ルールをハックしたり意表をつけるかを楽しんでいるような気がします。文学というよりミステリは遊びの側面が強い。
しかし、その構造を改めて見つめたとき思うことがあります。ゲームであるのならそこに「ストーリー」は必要なのか、「ストーリーの中に確かに生きている人」は必要なのか、と。
そんな疑問にこの「禁忌の子」は答えを出してくれたように思います。
自身と瓜二つの遺体と遭遇する救命医・武田は、旧友で医師の城崎と共に調査を進めていきます。二人の主人公を通して描かれた事件の顛末は、予想を遥かに超えるものでした。
もし私たちが謎に、途方もない理不尽に相対した時、そこにどんな正しさを見出すのか。
ミステリがゲームでありながらストーリーを伴うドラマであることの価値を示してくれる、
たしかな「生命」の宿った作品です。山口さんの次回作が楽しみです。