生きてるだけで、愛/本谷有希子

「あたしを怒らせない一番の方法はね、とりあえずうなずいてやり過ごすんじゃないから。あたしが頭使って言葉並べてんのと同じくらい謝罪の言葉考えて、あたしがエネルギー使ってんのと同じくらい振り回されるってことなんだよね」

人は皆、それぞれ異なる世界を生きていて、完全に理解し合うことはできません。自分がどれほど些細な（とされる）ことで傷ついたか、どれほどの努力で平静を保っているか、あるいはなぜこの言葉が自分にとって特別なのか、そうしたことは、本当の意味では誰にも伝わりません。
それなのに、私は私を「わかってほしい」と願わずにはいられない。なぜなんだろう。誰かに「わかってるよ」と言われたら、私は満たされるのだろうか。作られた共感にすがるのは恐ろしいことなのに。
こうした願いは、叶うことのない滑稽なもののように思えます。それでも決して間違いではない。人間は、それぞれが唯一無二の存在でありながら、そのオリジナルさを持って共存していかなければならないからこそ、「わかってほしい」ときっと願ってしまうのだと思います。
生きることを肯定することは、ただ愛のように分からないものを分からないままに抱きしめることなのかもしれません。私は自分の分からなさも、他人の分からなさも、ただそれを知り、隣にいることができるような人でありたい。

本作は、そんな願いを抱えた主人公・寧子の物語だと思います。どうしようもなく不器用で、壊れそうな寧子の姿に、自分自身を重ねてしまう人もいると思います。誰かと共にいること、自分でいることの苦しさ、分からなさ、愛ってなに。それでも生きていることの意味を問い続ける彼女の姿は、あなたの心に深く残るはずだと思います。