ヘヴン川上未映子
森の図書室

ヘヴン川上未映子

2025.05.25

川上さんの作品はこれが初めて。
どんな物語を書かれるのかワクワクしながら手に取りました。

読了後、いろいろ回収できてない伏線が気になるところではあるものの、考えさせられるモノでした。

先にお伝えしておきますが、題材が題材なので後味は決していいものではないです。

日常的に同級生から虐められている主人公の僕。
そんな僕の元へ突然《わたしたちは仲間です》という手紙が届く。
最初は新しい嫌がらせが始まったのかと思ったが、それは僕と同じように虐げられてる同じクラスのコジマからだった。

それから僕とコジマは誰にも見つからないように手紙交換を始める。

いつしか彼女とのやりとりは僕にとってなくてはならないものになり、彼女もまた僕と同じ気持ちだった。

「僕とコジマの友情は永遠に続くはずだった。
もし彼らが僕たちを放っておいてくれたなら。」

私が1番印象に残ったのは、後半で繰り広げられる僕と百瀬もいうクラスメイトの対話のシーンです。

「別に君じゃなくたって全然いいんだよ。誰でもいいの。たまたまそこに君がいて、たまたま僕たちのムードみたいなのがあって、たまたまそれが一致したってだけのことでしかないんだから」

この百瀬の台詞、なんだか腑に落ちてしまいました。
それは納得したとか共感したとかではなく、きっとそういう人がいるからいじめというものは消えないのだろうなって思ったのです。

本の内容とは少し話が逸れますが、昨今のSNSの普及により問題視されている誹謗中傷なども、している人はきっとこういう思考回路なのだろうと。そこに罪悪感や良心の呵責なんてものはなく、ただただ、そのとき沸いた欲求を満たすため。

「自分がされたらいやなことからは、自分で身を守ればいいんじゃないか。単純なことじゃないか。ほんとはわかってるんだろうけどさ、『自分がされたら嫌なことは、他人にしてはいけません』ってあれ、インチキだよ。嘘に決まってるじゃないか、あんなの。ああいうのは自分でものを考えることも切りひらくこともできない、能力もちからもない程度の低いやつらの言い訳にすぎないんだよ」

私は百瀬のこの力強い言葉に、そうなのかもしれないと縦に首を振りそうになりました。

誰かに守ってもらったり、誰かに助けを求めたり、誰かの変化を望んだり。
それは決して悪いことではないだろうけど、それだと膨大な時間を要するかもしれない。
だったら、自分で自分を守る方が手っ取り早い。

でも、どうなんでしょう。
作中の僕のように、従うことしかできない人は、どうしたらこの苦しみから逃れられるのでしょうか。

コジマは、「苦しみを、弱さを受け入れたわたしたちこそが正義なのだ」と、真っ直ぐな目で話します。

正義とはなんなのか、受け入れることは本当に正しいのか。

私は人間のこういうところが好きであり、
こういうところが嫌いです。

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