好きを言語化する技術/三宅香帆
森の図書室

好きを言語化する技術/三宅香帆

2025.06.02

何か文章を綴る機会がある人にとって、最も難しい作業は“1行目の文章を考えること”です。日本語においては、自立語や付属語など単語の連続でしかないですが、小説やビジネス書など不特定多数に読ませることを目的とした著作では、最初の一文で作品全体の様相を捉えさせ、読者を引き込む工夫が求められます。例えば、数年前に本屋大賞を受賞した『汝、星のごとく』の序文は「月に一度、わたしの夫は恋人に会いに行く。」と。伊坂幸太郎の『重力ピエロ』は、「春が二階から落ちてきた。」と。安部公房の名作『箱男』は、「これは箱男についての記録である。」と。爆発的に売れた佐々木圭一「伝え方が9割』では、「伝え方にはシンプルな技術がある」と。おそらく世に言う売れた本というのは、序文の作りが非常に上手です。物語であれば、この後の展開を示唆したり、概要を大まかに捉えることができたり、そして伏線を張ることもできます。また、説明文では冒頭で結論を端的に示すことを美学としながらも、読者に読ませることを目的とした単語を選択しています。本作では、書き出しは音楽で言えば“サビ”であるべきとし、文章の顔であると述べています。例としてあげた作品も、あの書き出しによってその作品の色が決まったと言っても過言ではないでしょう。今一度、作品の書き出しに注目してみてください。また、私たち図書委員会が書く読書感想文の書き出しも人によってバラバラでものすごく個性が出ていると思います。再度、読み返してみてはいかがでしょうか。

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