〈森の図書委員今日のおすすめ本〉
『金閣寺』三島由紀夫
青春小説でもあった。実際にあった金閣寺放火事件を元にした作品。
解説で恩田陸さんが書かれている通り、この本は今にも通ずる苦悩を描く。
「私は自分の思想に、社会の支援を仰ぐ気持はなかった。世間で分かりやすく理解されるための枠を、その思想に与える気持もなかった。何度も言うように、理解されないということが、私の存在理由だったのである。」
圧倒的な「美」と対峙したとき、人は自分自身の醜さを突きつけられ、無力感に襲われる。
だからこそ、主人公は自らの手で金閣を焼き払うことで、それを取り込み、自分の中に昇華させようとしたのだろう。
映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』を観て、ずっと読めずにいた『金閣寺』にようやく手を伸ばした。
今年は三島由紀夫生誕100年でもあるという。
未読の方にはぜひ手に取ってほしい。戦中・戦後を生きた一人の青年と出会い、彼の視点を通して当時の風を感じ、今という時代を見つめ直す。
そして、彼が最後に下した決断に、ふっと息を吐くような、不思議な読書体験ができると思う。