田舎と都会の間のような物腰の柔らかい町。緩やかに流れてきた川。古道具店を営む実家。就職先の靴屋。その全てがものの見事に、的確に描写と美しい文章で創られています。何でこんなにも綺麗に美しく言葉を紡げるのだろうと、感動したことを覚えています。
No.1、No.2、No.3、No.4と4つの章に分かれています。主人公である麻子の中学生時代の章。高校生時代の章。商社に就職したものの靴屋に派遣される章。商社に戻って働く章。と四部構成になっています。4つが短編として屹立していると言ってもよく。ただ、それが実に繊細にに繋がっているため、見事な長編と言ってもよい。
僕が中学生時代、初めて手に取った時は、
麻子の中学生時代を描いたNo.1が好きだった。
同じ中学生としてか、なにか言いようのない親近感を持った。ただ、今一度読み返してみると、高校生時代や就職してからの章の魅力に驚かされた。あの時は分からなかったことが、今になってしみじみと感じるような、そんな驚きでした。
宮下奈都さんといえば「羊と鋼の森」ですが、それよりも少し前に書かれた作品です。麻子の主観的な目線から綴られる言葉の数々に、美しさ、繊細さを感じられます。
青春小説。成長小説。家族小説。姉妹小説。職場小説。恋愛小説。と、何とも取れるそんな小説です。今の生活、今の仕事、今の恋人に迷いを感じている方、特に若い方にぜひ読んでいただきたいです。