「──もっと、ちゃんと高校生やっとくんだったな」
融は思わず呟いていた。
「え? 何?」
貴子が振り向く。
「損した。青春しとけばよかった。」
もう、2度とやりたくないと思うような行事の数々。長距離走やプールのテスト、文化祭の運営… 大人になった今だからこそ愛おしく思える日々は当事者だと霞んでしまうものですね。
そこに特別なできごとが無くとも自然と輝いて見える高校生活は、揺蕩う生活の中で特別な時間でした。
劇的な変化や行事、思い出がなくともなんだかんだで思い返せばほんのり眩く見える。
まだ輪郭があやふやだった自分と、その時間と、空気と、邂逅できる一冊です。