「なにかを生みだすためには、言葉がいる。岸辺はふと、はるか昔に地球上を覆っていたという、生命が誕生するまえの海を想像した。混沌とし、ただ蠢くばかりだった濃厚な液体を。ひとのなかにも、同じような海がある。そこに言葉という落雷があってはじめて、すべては生まれてくる。愛も、心も。言葉によって象られ、暗い海から浮かびあがってくる」
中学生の頃、先生に言われた通りに特にこだわりもなく辞書を買って重いよね、と友達と笑いながら授業に持参していた私にとって、辞書にここまで情熱を、人生を捧げる人々がいたとは。
自分と言葉の距離や言葉の輪郭を少し鮮明にしてくれた、心がじんわりとあたたまる優しい本です。
出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。