新しい辞書の出版に向け、辞書編集部に引き抜かれた馬締。変わり者で抜けているが言葉へのセンスは抜群な彼が辞書『大渡海』を作りあげるまでの長い物語。
まず「そういえば辞書だって誰かが作った本なんだ。」という少し情けない感想が浮かびました。当たり前のように存在し使われている辞書が、同じ人間によって作られたものだという実感が初めは全くわきませんでした。
そもそも言葉を個人が定義するというのは、気が遠くなるような作業だと思います。言葉は変わり続けるもので1つの絶対的な意味を決めるのは不可能です。それでも多くの人が納得できるような辞書を作り出そうと奮闘し続ける編集部の人々の姿は、まさに”言葉に執着している”と言えるものでした。
「辞書は言葉の海を渡る舟だ。」
『大渡海』の命名理由でもありとても印象的なセリフでした。
辞書は言葉を追求し続ける人々によって繋がれてきた道標なのでしょう。無機質なように思えて、人間らしさがつまっています。
普段は電子辞書ばかり使ってしまいますが、紙の辞書をめくって、その個性を味わいたくなるような一冊でした。