「楽しい時間は、体からも心からも無駄なものを取っ払ってくれる。それだけで十分だ」
瀬尾まいこさんは、音楽のことを通して人の心を描くのが、本当に上手だと思います。
善も悪もなく、音楽が純粋に持っているやさしさをさらりと書き上げてくれて、
いつの間にか彼女の書く言葉が、自分の言葉にもなっていくような感覚です。
ミュージシャンの夢を捨てきれないまま、甘えた日々を送る主人公と、神がかったサックスを吹く介護職員、そして人生を終える寸前の大人たち。
老人ホームを舞台にして巻き起こる彼らの交流には、平穏さの中に確かな現実もあり、気づけば自分の心にもその情景を映して、一緒にいろんなことを考えてしまいました。