愛の夢とか/ 川上未映子
森の図書室

愛の夢とか/ 川上未映子

2025.01.02

「終わりは終わりの顔をしてわたしたちを訪れるようなことはこれまでだってなかったし、これからだって決してない。何かとよく似た顔をしてやってきて、通りすぎたうんとあとにあれが最後だったと気づくだけ。」

「喪失感」の正体はなんだか夢の終わりと似ている気がしませんか?
この作品はそんな「喪失」をテーマに7つの物語からなる素敵な短編集です。

作品の中で描かれるのは、日々の中で静かに失われていくものや、ふとした瞬間に感じる虚ろな感覚達。人間関係や自己認識、愛の儚さに揺れる登場人物たちが、それぞれの心の奥で抱える「喪失」に向き合っていきます。

川上未映子さんの文章が持つ、その繊細さと独自のリズム感、詩的で美しい言葉たちは心の隙間に入り込み、いつのまにかの自分の記憶の一部のように染み渡っていく。そんな感覚に私はついつい没頭してしまいます。圧倒的な言語化能力、あっと心を掴まれる表現の数々もたまらない。

かつて私たちの大切な一部であり愛しんできた存在だからこそ、別れや終わりには底抜けのない寂しさや虚無感、また、かすかな安らぎや温もりが伴うように感じます。完全に消えてしまうわけではなく、心の奥で形を変えて残っているその存在に気づいたとき、喪失は単なる「無」ではなく、確かにそこに存在した証として感じることができる。まるで夢の中で見かけた風景が、不意に目覚めた時にも残り続けるように、冷たさだけではなく過去の温かさや愛おしさが混ざり合い、寂しさの中にも微かな安らぎがきっと生まれている、と私は思います。

大切な人やもの、たまに見返して抱きしめたくなる愛のような、そんな気持ちをきっと感じることができる、素敵な作品です。

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