架空犯/東野圭吾
森の図書室

架空犯/東野圭吾

2025.06.18

下手に両思いになったり、なろうとするから失恋する。

片思いなら、傷つくことも傷つけることもありません。叶わなかった恋心ほど、後まで残るものはありません。2人で行った場所や食べたもの、語った将来、迷いその全てが思い出となり、何かの拍子でその引き出しが開けられてしまうのです。ただ、もちろんそれ自体が決して悪だと言うわけではなく、その昔を追いかけてしまった先にある本能的な行動に不完全な悪が含まれてしまっているのです。誰しも大小問わず様々な失敗がありますが、自分の意のままに/本能的に動いてしまった時ほど、失敗の重症性は高まってしまいます。本作で現れる最も大きな失敗は、完全なる理性の欠如と下手な両思いによって引き起こされたものです。そして、それによって仕舞われていた当時の記憶や思いが蘇り、さらなる失敗を繰り返してしまいます。
人の行動に完璧な正解はありません。ただ、確実な失敗の選択肢はいくつもあります。それらを踏まないよう、理性をもって行動することが求められるのです。

さて、この本を単なるミステリー・刑事物と捉えるとあまりにも淡白な作品です。比較的、小説や漫画などの媒体はエピソードのみを堪能することが多い自分ですが、作品全体の構成として各登場人物それぞれを丁寧にピックアップし繊細に描かれているため、非常に読み終わった後の余韻が長かったです。近年の東野圭吾作品の中ではトップクラスに“良い本”なのではないでしょうか。

SHARE
LINE@友達追加方法LINE@友達追加方法

LINE@友達追加方法

  1. QRコードを読み取ると友だち追加できます。上記ボタンを押すと友だち追加できます。