同志少女よ、敵を撃て/逢坂冬馬
森の図書室

同志少女よ、敵を撃て/逢坂冬馬

2025.06.26

2022年本屋大賞の受賞作。読まれたことのある方もおおいのではないでしょうか。
ロシア・ウクライナ戦争――連日のニュースで耳にする地名が、この作品では毎ページのように登場する。80年前の戦争が描かれているはずなのに、今も彼女たちと同じ景色をみて同じように敵を撃ち、葛藤している人たちが存在している。そう想像させられる。

物語は、ドイツ語を学び外交官を夢見ていた少女が、やがてドイツ兵を撃つ狙撃兵となる過程を描いている。ウクライナのコサック兵の末裔、戦時下における女性の立場、戦後の狙撃兵の処遇、塹壕戦――読みながら、「そうか、これが戦争で実際に行われていることなのか」とストンとおもった。
正直に言うと、私は今でも戦争の現実を想像するのが難しい。でも昔から関心があり、国内外の資料館や歴史館を訪れ、大学でも外交史や安全保障について学び、ロシアの安全保障観について論じたこともあった。
旧ソ連諸国間の関係や戦術。それらが史実に基づいて描かれている本作は、頭の中で断片的に学んできた知識を、感情の通った「実感」へと変えてくれた。

筆者のあとがきには、こんな一文がある。
「どのような時代も、いかなる民族、国籍、人種も、その全体を憎悪してはならず、戦争行為と悪行の責任が、それら全体に還元され、懲罰の対象と捉えられることがあってはならず、同様に、いかなるアイデンティティも、共感の対象から排除されてはなりません。
それは虐殺を防ぐ論理ではなく、あらたなる虐殺を誘発する論理であるからです。」

戦争において「国籍」だけを悪の象徴としてとらえるのではなく、そこに生きる一人ひとりの人間に目を向けなければならない。戦う人々もまた、普通の少年や少女だった。共感できる部分があること。それこそが相互理解の入り口なのだと信じたい。

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