「見分けのつかない、人生の中のただの一日だった。変装した五人の男たちが、グラインダーで尖らせた傘の先を、奇妙な液体の入ったビニールパックに突き立てるまでは……。」
オウム真理教地下鉄サリン事件は私が生まれる前の話なのですがこの本を初めて読んだ時まるでタイムスリップしたかのように、実際に自分が対峙している感覚に陥りました。皆様ご存じ村上春樹が被害者と丁寧に対話し、なるべく主観が入らないよう何時間も何時間もかけ完成した一冊。どれだけ客観的に捉えているつもりでも少なからず自分のバイヤスがかかっているものですが、この膨大な量を書き上げた村上春樹氏には頭が上がりません。
昨今世の中ではとても他人事とは思えないようなものから、事の重大さはわかるものの内在的に思考を回らさないものまで多くの問題が蔓延しています。もちろん当事者ではない限り全ての事象を真摯に受け止めることは難しいのですが、少しでも寄り添うことに意味があるのではないかと思います。宗教の問題は様々ありますがまずはこの一冊、アンダーグラウンドを開いてみるのはいかがでしょうか。