〈森の図書委員今日のおすすめ本〉
『海賊と呼ばれた男』百田尚樹
「日本は必ずや再び立ち上がる。世界は再び驚倒するであろう」
「しかし──その道は、死に勝る苦しみと覚悟せよ」
出光興産創業者・出光佐三をモデルとした国岡鐡造の生涯と、国岡商店が大企業へと成長する過程が描かれています。
「日本の誇り」という言葉を、戦後の日本で口に出すのはどこかためらいがちではないでしょうか。「HINOMARU」という曲が議論を呼んだのも記憶に新しいです。それは太平洋戦争の反省や戦後教育、ナショナリズムの再興といった、複雑な背景が絡んでいるからかもしれません。少しでも「お国のために」というニュアンスが含まれると、すぐに右派・左派の論争が巻き起こってしまうのが現状です。
しかし最近、その風潮に少し違和感を覚えることがあります。個人よりも共同体を重んじる価値観は、戦時中だけに生まれたものではなく、むしろ日本の長い歴史の中で培われたものです。江戸から明治に移る際に日本人が個人主義をどう受け入れるべきか葛藤した、その延長線上にあるのではないでしょうか。
作者の思想や活動に関して意見が分かれることもありますが、純粋に物語の中の国岡鐡造の生き様には心を打たれます。敗戦後、「日本のために」と自らの利益を後回しにし、石油配給統制会社や海外の石油メジャーと正面から対峙する姿勢は圧巻です。そのひたむきさや信念は、今の時代にも少しは必要とされる部分があるのかもしれない──そう感じさせてくれる作品でした。