「あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。ーそれでも文、わたしはあなたのそばにいたい。」
未成年児童誘拐の犯人と誘拐された少女の関係は、きっと許されざるものであるはず。でも、そこに介在する本当の真実は再会を促す運命だったのかもしれません。近年では、SNSの発展により私刑や情報の齟齬が一つの問題です。情報が不透明なままでも簡単に流通してしまう社会になったからこそ、適切に対応し真実を見つめていくことが求められます。当事者でもない我々が赤の他人に対する虚像を真実のものとして解釈し押し付けてしまう、そんな現実に対立したお話です。
個人的に、本を読むときに筆者の思惑や物語の本質を掴もうとしないよう意識しています。できるだけエピソードをなぞるように読み、描かれているものだけを脳内で描写する。そういう読み方に注力しています。単に“考えたくない”というのもありますが、綴られる文字や表現の美しさを感じたいのです。凪良ゆうさんの作品、『汝、星のごとく』や『わたしの美しい庭』など繊細で丁寧な描写が特徴だと感じます。綺麗な表現の中で織りなす人間関係の複雑性や社会の一般性との乖離を表す仕草は、他の追随を許さない、凪良ゆうの強みだと思います。ぜひ今一度手に取ってみてはいかがでしょうか。