
ひとつの夏が、誰かの人生を優しく変えてしまう瞬間を描いた物語。
高校を中退し、どこか行き場を失ったまま時間を持て余している青年・大田。
彼が預かることになったのは、生まれて間もない小さな命。
慣れない抱っこ、ぎこちないミルク、泣き止まない夜。
そのひとつひとつの出来事の中で、止まっていたはずの彼の時間が、少しずつ動き出していく…
この物語には、派手な奇跡はありません。
けれど、赤ちゃんのぬくもりや、夏の空気、汗ばむような日常の中に、確かに人が変わっていく気配があります。
瀬尾まいこさんの物語は、いつも「優しさ」を声高に叫ばず、ただ、そっと差し出してくれているなと…
彼が赤ちゃんと過ごす日々は、舞台でもある季節、まさに夏の夕暮れのように感じました。
眩しくて、少し不安で、それでもどこか温かい、あのちょっと切ない感じ。
読み終えたとき、胸の奥に残るのは大きな感動というより、
「人は、誰かに必要とされることで前へ進めるのかもしれない」という事。
ひと夏の出来事なのに、まるで人生の節目を見守ったような読後感が残りました。
それはきっと、
まだ大人になりきれない誰かが、大人になっていく瞬間を見届けたから。